院長コラム › 書評準備稿(1)『赤頭巾ちゃん気をつけて』

庄司薫の名前が都立日比谷高校の卒業生名簿に載っている。
この記事は私をクスリとさせる。ジョークだからだ。庄司薫は小説の主人公だ。

1969年、東大入試が中止となった。東大志望の日本全国の秀才たちは変更を覚悟せねばならなかった。

日比谷高校の東大志望の受験生薫くんは浪人を選択してしまう。ここから駿台予備校の
名キャッチコピーが生まれた。「第一志望はゆずれない」(ウソですよ~)
同時代的なタイムリーな小説だった。その年の芥川賞を受賞した。『女の子にも負けず。ゲバルトにも負けず。男の子いかに生くべきか。』表紙の腰巻のキャッチコピーに私は感動した。

当時の若者口調の文体。サリンジャー翻訳の文体の類似を指摘した批評があった。しかし、あれは東京の山の手で育った高校生の普通の話し言葉だった。庄司薫のペンネーム。中性的でソフトでやさしげなイメージを醸していた。

一人称=主人公=作者という私小説の約束事を利用し、小説というフィクションの世界にリアリテイーを付与する頭のいい方法だった。虚実を反転させる鮮やかな小説に当時高校3年生だった私は、東大を目指すほどの秀才ではないにもかかわらず、薫くんにすっかり魅了されてしまったのだ。

程なくして、庄司薫は1937年(昭和12年)生まれの福田章二。(この稿つづく)