院長コラム › よりによって6月4日に歯医者通いとは漱石らしい

夏目漱石は明治32年から亡くなる大正5年まで日記を残していた。

岩波版『漱石全集』第13巻には全て収録されている。平岡敏夫氏は漱石文学にとって重要と思われる年代部分を
7篇に編集し『漱石日記』として岩波文庫より発表している。

その中の1篇に『それから』日記があり、漱石のウ蝕治療の記述がある。

5月31日(月)晴。小説『それから』を書き出す。

6月 3日(木)曇。急に歯痛起る。歯医者へ行く。帰りに床屋へ入る。
6月 4日(金)晴。歯医者へ行く。太平洋画会に行く。
6月 5日(土)晴。歯医者へ行く。眠くて昼寝をする。甚だ好い心持であった。夜小説二回分を書く。
          考えていた趣向少々不都合を生ず。
6月 6日(日)雨。歯医者へ行く。神経をとる。寺町を散歩して帰る。
6月 8日(火)晴。朝、歯医者へ行く。

8月14日(土)『それから』を書き終る。

小説は完成したようだが、6月6日に抜髄した歯はそれからどーしたんやと、思わずツッコミを入れたくなる。
漱石好きの歯科医がこの日記を読むと、たぶん全員がそう思うだろう。あるいは、よりによって6月4日に
歯医者通いとは漱石らしいと思うだろうか。(後年、6月4日は虫歯予防の日となる)

漱石のウ蝕治療は文学としての『それから』にどのような影響を与えたのか、または与えなかったのか。
この謎解きは私のそれからの宿題にしよう。