お知らせ › 尻もち献花せず

那須郁夫教授は私の先輩だ。

学生の頃私はウツウツとしていた。歯学部に入学したものの学業に身が入らず、落第を繰り返していた。
図書館にこもって本ばかり読んで人と会話をしないことが多かった。お昼に学食に入り「B定食ください」がその日発した唯一の言葉だったこともある。いつかその頃の事情を書こうと思っているが話が前に進まなくなるので今回は割愛する。

森本基教授の衛生学教室に出入りし、教室の先生方のお話を聞くのが私の楽しみのひとつだった。その教室員の一人が当時助手だった那須先生だった。現地で習得したというネパールカレーを手作りし集まった全員にご馳走したり、マークシート方式の国試で答えが分からない場合、確率論的推測で正解を見つける方法を
伝授したり、クヨクヨしても始まらない、カラ元気でもいいから明るく行こうぜの先輩だった。

その那須教授の論文が日本歯科医師会雑誌2月号に載っていた。その中に「咀嚼と餅つきのアナロジー」と題した章がある。「臼と杵は、口腔と歯。つき手は咀嚼筋。返し手は舌運動。打ち水は唾液。つき上がった餅は、嚥下可能になった食塊」と相変わらずの面白い発想だ。

寺田寅彦は「茶碗の湯」で、茶碗を地球に見立てて気象現象を分かりやすく解説していた。那須郁夫は餅つきを咀嚼に見立てて歯科の近未来を指し示している。

そうか、チューイングシンドローム(咀嚼器症候群)への対応に、これからの歯科は移行してゆくのか。

歯科医師はうまいもちつき屋になるべきと私は論文をそう理解した。そういえば、私の人生は尻もちばかりだったと苦笑する。突然駄洒落がでる。尻もち献花せず。突然鼻歌がでる。♪もちもち~もっちもち~♪
少し気分が明るくなる。